脂質異常症
1. 脂質異常症とは?
血中の脂質(脂肪)、例えばコレステロールや中性脂肪が多い状態は「脂質異常症」「高コレステロール血症」「高脂血症」と呼ばれます。脂質にはLDLコレステロール(通称「悪玉」コレステロール)、HDLコレステロール(通称「善玉」コレステロール)、中性脂肪などがあります。LDLコレステロールと中性脂肪は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の原因となります。一方でHDLコレステロールは心血管疾患のリスクを低下させます。脂質異常症は、食事の改善、運動、薬物療法の組み合わせによって改善させることができます。
2. なぜ治療が必要?動脈硬化と心血管疾患リスク
脂質異常症は、心臓(冠動脈疾患)、脳(脳血管疾患)、および四肢(末梢動脈疾患)に血液を送る血管が脂肪沈着で詰まることで、血流が制限され、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患の発症リスクを大幅に高めます。
脂質異常症に加え、以下のような複数の要因が心血管疾患のリスクをさらに高めます。
- 糖尿病
- 高血圧
- 慢性腎臓病
- 喫煙
- 両親や兄弟姉妹が若年(男性:55歳未満、女性:65歳未満)で心血管疾患を発症している
- 運動不足
これらの要因の有無にかかわらず、加齢とともに心血管疾患のリスクは上昇し、男性はあらゆる年齢層で女性よりもリスクが高くなります。
3. 症状が出にくい?
脂質異常症は発症初期には症状がないため、健康診断で異常が見つかることが多いです。健診で引っかかった場合には、一度かかりつけ医に、その後の検査や治療の方針を相談することが望ましいです。
4. 検査と診断の流れ
脂質異常症は、肥満や糖尿病、高血圧、喫煙、若年での心臓病や脳卒中の家族歴などがあると、心血管疾患のリスクが高くなります。そのようなリスク因子がない場合、男性は35歳、女性は45歳から定期的な脂質検査を開始することが推奨されます。リスク因子がある場合はより早期に、30歳から検査をした方が良いかもしれません。定期検査の間隔については明確な基準はないため、かかりつけ医と相談して決めると良いでしょう。
5. 生活習慣による改善策
5.1 食事を変えることでコレステロールは下げられますか?
食事内容を変えることでコレステロール値を下げられる人もいますが、必ずしもすべての人に効果があるわけではありません。しかし数値の改善がない場合でも、より良い食生活を送ることで、全体的な健康状態を改善することは可能です。
脂質異常症の場合、飽和脂肪酸の摂取を減らしたり、トランス脂肪酸の摂取を控えたりすることが効果的な場合があります。飽和脂肪は以下のような食品に多く含まれています。
- 牛肉、豚肉
- バター
- 揚げ物
- チーズ
- 洋菓子
トランス脂肪酸は牛肉や牛乳などの乳製品のような天然のもの以外に、マーガリン、ショートニング、そしてこれらを用いた揚げ物や菓子に含まれます。
また、コレステロール低下に役立つ可能性のある食事として、以下が挙げられます。
オメガ-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やす
魚にはEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)などのオメガ-3系多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。魚を多く摂取することで、冠動脈疾患発症の抑制が期待できます。
食物繊維の摂取を増やす
食物繊維は、野菜、海藻、大豆、きのこ、果物、穀物などに含まれています。食物繊維の摂取を増やすことで、コレステロール吸収抑制や胆汁酸合成促進などの作用があり、心血管疾患の予防が期待できます。
日本食を増やし、食塩摂取量6g/日未満を目標に減塩する
伝統的な日本食は、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物を中心とした食事で、このような食事は心血管疾患のリスクを下げることが知られています。一方で日本食は食塩が多いため、食塩の過剰摂取が血圧上昇、動脈硬化を促進する可能性があります。そのため、食塩摂取量1日6g未満の減塩を心がけながら日本食を増やすことで疾患リスクを上げずにコレステロールを下げることが期待できます。
5.2 卵についてはどうでしょうか?
卵は食べても大丈夫ですが、食べ過ぎないことが重要です。ニュースなどで卵の健康効果やリスクについてよく取り上げられますが、実際は卵は良質なタンパク質であり、コレステロール値を大幅に上昇させるわけではありません。卵よりも先ほど挙げた飽和脂肪酸の方が、コレステロール値を上げる傾向があります。
5.3 コレステロール低下のためにサプリメントを摂るべきでしょうか?
サプリメントが心筋梗塞や脳卒中などの予防に寄与するという十分な研究結果はほとんどありません。もしサプリメントを試したいときは、かかりつけ医に相談してみるとよいでしょう。
5.4 運動と減量
BMI 25以上の肥満がある場合、適正な体重への減量を目指しましょう。定期的な有酸素運動はHDLコレステロールを上昇させ、中性脂肪を下げる働きがあります。これらの効果によって心血管疾患のリスクを下げることが期待できます。
5.5 禁煙・アルコール適正量
喫煙はHDLコレステロールを低下させてしまいます。喫煙の影響は禁煙後1~2か月で改善します。過度な飲酒は中性脂肪を上昇させます。禁煙したり、飲酒は適量に留めることが重要です。当院の禁煙外来で禁煙のサポートを受けることができます。
6. 薬物療法
LDLコレステロールを下げるための多くの薬剤があります。各薬剤は作用機序、効果、および費用などが異なります。医師は、あなたの血中コレステロール値やその他の個別要因に基づいて、最適な薬の組み合わせを決めます。
高LDLコレステロールや中性脂肪の治療は生涯にわたるプロセスです。薬物療法は数週間以内に効果が現れることがありますが、生活習慣の改善の効果が現れるまでには6~12か月かかることが多いです。治療計画を立て、結果が出始めたら、その計画を継続することが非常に重要です。治療を中断すると、コレステロール値が再び上昇し、心筋梗塞、脳卒中、その他の心血管疾患のリスクが高まります。たとえ薬を服用していても、健康的な生活習慣を維持することが、これらの治療効果を最大限に引き出す鍵となります。内服を中止する理由の一つに副作用があります。しかし、現在は様々な種類の治療薬が利用可能なため、医師と相談することで、あなたに合った代替薬が見つかる可能性が高いです。
7. 家族性高コレステロール血症
極めて高いLDLコレステロール値(例:190 mg/dL以上)と同様の脂質異常を持つ家族歴がある場合、遺伝的要因により出生時から高コレステロールであり、心疾患発症リスクが非常に高くなります。このような患者は、リスクスコアに関係なく、通常は思春期後期から治療が開始されます。
8. 併存疾患への対応
8.1 糖尿病
糖尿病があると、心疾患リスクが高いため、LDLコレステロール値にかかわらず中等度あるいは高強度のスタチン療法が推奨されます。
8.2 高齢者
75歳以上の人に対して高コレステロール治療を行うかどうかは、実年齢と健康状態やフィットネスなどの「生理学的年齢」によって決まります。余命が限られていたり、重篤な基礎疾患がある場合は薬物治療が不要な場合もあります。一方、健康な高齢者には年齢だけで治療を否定すべきではありません。基本的な治療目標は、すべての年齢層において同様に適用されます。
9. 当院で行う検査・サポート体制
当院ではコレステロールや中性脂肪の血液検査の他に、頚動脈エコーやABI、PWVによる血管の動脈硬化の評価を行っています。心電図検査で心機能や冠動脈疾患の精査も実施しています。また、管理栄養士による栄養指導もあります。お気軽にご相談ください。
10. 参考文献
- Rosenson RS. Patient education: High cholesterol and lipids (Beyond the Basics). In: UpToDate, Freeman MW (Ed), Wolters Kluwer. (Accessed on June 9, 2025.)
- Tangney CC, Rosenson RS. Lipid management with diet or dietary supplements. In: UpToDate, Freeman MW, Seres D (Ed), Wolters Kluwer. (Accessed on June 9, 2025.)
- Rosenson RS. Secondary causes of dyslipidemia. In: UpToDate, Freeman MW, Gersh BJ (Ed), Wolters Kluwer. (Accessed on June 9, 2025.)
- 金城光代,金城紀与史,岸田直樹.ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版.医学書院.2025年.